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大阪地方裁判所 昭和30年(行モ)6号 決定

申立人 松本甫

被申立人 大阪府公安委員会

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立代理人は「被申立人が申立人に対し昭和三十年九月十七日より同年十一月六日まで五十日間運転免許を停止した同三十年九月二日付行政処分の執行を停止する」旨の決定を求めその理由として「申立人は大阪市公安委員会の自動三輪車免許をうけ、自家用小型三輪車運転および雑役者として大阪市内所在の石鹸製造業大福商事株式会社に勤務しているものであるが、被申立人は申立人に対し右申立趣旨記載の通り運転免許を五十日間停止をした。右停止処分をなした理由とするところは申立人が昭和三十年五月五日午後二時頃大阪市南区内安堂町松屋町筋道路上において申立人の操縦する小型三輪自動車と申立人外、山内憲の操縦する原動機付自転車とが衝突し、山内が治療三ケ月を要する傷害をこうむつたのであり、右は申立人の過失によつて生じたというのである。しかしながら、右交通事故発生の場所は松屋町筋といわれる幅員約二十四米の南北に通ずる道路が内安堂町と交叉している十字路の中央地点であるが、当時申立人は小型三輪自動車を操縦して松屋町筋北から南方へ進行し右十字路において西方へ転回をしようとしていた。その際申立人は同交叉点において右側方向指示器を出しかつ、一旦交叉点の北側にて停車し前方から北進する車、後方から南進する車の有無を確認する処置をとりそしてこの間後方から南進中の自動車を七、八台をさきに遣り過し前方から北進する車のないことを確かめて徐行しつゝ西方に転回しつゝあつた際山内憲が原動機付自転車を操縦し北から南方に向つて時速廿七・八粁の速力で申立人の西進中を横断しようとしたため申立人の自動三輪車の前部と衝突し前記負傷をしたのである。

右事故は申立人がすでに右側方向指示器を以て右折を示して西方へ転回しつゝある以上山内において道路交通取締法並に同施行令により注意をするならばこれを避け得られたものであるが、漫然と山内が速力を維持して横断しようとしたがため事故を惹起したものであつて、山内の過失によるものである。しかるに被申立人は申立人の過失によるものとして前記処分をなしたものであつて右は違法な処分で取消さるべきものである。しかるところ、本案の取消訴訟確定までにはなお相当の日時が予想されるので右行政処分の執行停止決定を得ることが出来なければ五十日間の停止期間も終了し本件訴訟はその実益を喪失する結果となり且つ右運転停止中申立人の勤務も停止を余儀なくされ妻子三名を扶養するのに生活上重大な脅威をうける。右は運転停止処分により償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があると認められるものであるから本件申立に及んだというにある。

よつて被申立人のなした本件運転停止処分が申立人にとつて償うことができない損害を避けるため緊急の必要があるか否かにつき按ずるにたとい本件停止期間を経過してもなお、右取消訴訟を求める実益はあり且つ申立人は現在大福商事株式会社に運転者および雑役として勤務しているのであるから妻子を扶養するに要する収入がこれがために停止されるものと認められないばかりでなく、たといこれによつて損害を蒙つてもこれは金銭で賠償できるものであるからいづれによつても本件処分の執行によつて償うことのできない損害を生ずるものと認めることができない。

然らば右処分の執行停止を求める本件申立は理由がないこと明らかであるからこれを却下し申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 乾久治 松本保三 入江博子)

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